【財務分析】イオン株式会社 収益性が低すぎて辛い

【財務分析】はじめに

 今回は知らない人はいないくらい有名な、ショッピングモールのイオンを分析してみます。最近は、赤字に転落するニュースもあり、外出自粛の影響をもろに受けている感じはしますが、その前からどうだったのかというのを、財務分析を通してみていきたいと思います。

【財務分析】サマリー

 スーパーマーケット事業が主体で、複数の事業を持つ、8兆円強もの売上高を誇る企業です。10期連続の増収、過去最高を更新しています。
 売上高の主力はイオンやマックスバリュなどのスーパーマーケット事業ですが、競争の厳しさからか、利益率は概ね1%にも満たない状況です。タイトルにも書きましたが、収益性の低さが気になる点と、その中で販管費が非常に高い点も気にかかります。
 一方、イオン銀行などの総合金融事業、イオンモール(ショッピングセンター運営)などのディベロッパー事業の利益率が15~17%と高くなっています。
 売上高で見ると、主力はスーパーマーケット関連の事業ですが、利益で見ると総合金融事業やディベロッパー事業となっています。 

【財務分析】事業セグメント

 イオンは複数の事業を持っています。スーパーマーケットのイオン(GMS事業)、マックスバリュやダイエーなどのSM事業、イオン銀行などの総合金融事業、イオンモール(ショッピングセンター運営等)などのディベロッパー事業などです。
 スーパーマーケットと総合金融事業では、業種が異なり、財務面でも異なってくるでしょう。意識しながら分析していきます。

【財務分析】成長性

【成長の要因】

 売上高は2015年度の8兆1,767億円から、2019年度の8兆6,040億円で、年平均成長率(CAGR)は1.3%です。イオン株式会社の2020年2月期 決算説明会資料 P3によりますと、10期連続の増収、過去最高を更新です。
 個人的な感想ですが、スーパーマーケット主担の会社で、8兆円もの売上があるのか~と驚きました。また、年平均成長率は1.3%と、思ったより伸びてなんだなとも感じました。

【資産への投資】

 総資産が2015年度の8兆2,259億円から2019年度の11兆627億円で、年平均成長率(CAGR)は7.7%です。売上高の伸びの割には、資産が随分増えていますねー。
 資産の中身を見てると、流動資産が2兆円強、そのうち「銀行業における貸出金」が0.8兆円くらい増えています。店舗などの有形固定資産は約0.5兆円の増加です。資産の増加の割には、売上が増えていない?と思ったのですが、金融事業のインパクトが増えてきたとも取れますね。

【財務分析】収益性

【ROA(総資産利益率)の推移を確認】

 ROA=営業利益÷総資産です。投資した資産がどれくらい利益を生み出しているかを示します。
2017年度の2.2%から2019年度の1.9%と低下傾向にありますね。なぜでしょう。

【ROAは売上高営業利益率、総資産回転率のどちらによる変動か】

 ROA=売上高営業利益率×総資産回転率 とも計算できます。つまり、より利益が上がるようになってROAが向上したのか、資産を有効活用できるようになってROAが向上したのかわかります。売上高営業利益率は上昇しましたが、総資産回転率が低下していますね。先述のとおり、金融事業のインパクトが増えてきたからでしょうか。ところで、金融事業のROAってどれくらいがいいんでしょう。勉強しなきゃ。

【売上原価率と販管費率の遷移を確認】

 売上原価率が2015年度の64.8%から2019年度には63.6%と低下傾向にありますね。金融事業などのインパクトが増えてきたからなのか、それとも地道なコスト削減か、両方の影響なのか。切り分けが難しいですね。

【各回転率の変化はどうか】

 売上債権回転率、支払い債務回転率が低下傾向にありますね。これも、スーパーマーケット以外の事業の影響なのか、スーパーマーケットなどの事業自体が変わっているのでしょうか。

【財務分析】安全性

財務面の安全性を分析します。安全性を見ることで、債務が多すぎないか、短期的な資金繰りに大きなリスクはないかなどを知ることができます。

【短期的な資金繰りをチェック】

 流動比率=流動資産÷流動負債です。短期的に支払わなければならない負債と支払いに使えるお金の比率を示すイメージです。一般的には200%を超えていれば良好とされています。イオンは100%程度ですが、改善傾向にあります。

【負債の大きさに問題はないか】

 負債比率=負債÷純資産です。自分の資産(純資産)と借金(負債)の比率を示します。負債比率が多すぎると、利息の支払い負担が増します。一般的には100%以下が良好とされています。
 あれ、負債比率がどんどん悪化している!と思いきや、連結の貸借対照表を見ると、「銀行業における預金」が2015年度の約2.1兆円から2019年度には3.8兆円まで増加していますね。ここでも金融事業の影響が表れています。

インタレストカバレッジレシオ=(営業利益+受取利息等)÷支払利息です。
支払う利息に対して、何倍の利益を稼いでいるかを示します。明確な基準値はありません。

【長期的な安全性】

 固定比率=固定資産÷純資産です。工場や店舗などの資産をどれくらい自己資金で賄っているかを示します。一般的には100%以下が良好とされています。固定比率が2017年度の208%から2019年度には235%と増加傾向にありますね。今後を注視したいところです。

【補足】固定長期適合率

 固定比率が100%より多い場合、固定負債を考慮した固定長期適合率=固定資産÷(固定負債+純資産)を考えます。長期的に使う固定資産なので、自己資金+長期的に返済する固定負債で賄っていれば良いとう考え方です。目安は同じく100%以下です。イオンは2019年度で97%と目安の範囲内です。

【財務分析】キャッシュフロー(CF)

【営業キャッシュフロー(CF)をチェック】

  企業活動でどれくらいお金を稼いでいるかです。これがマイナスだと、きちんと利益を上げられていないことを示しています。営業キャッシュフローが2015年度の432億円から2019年度の6,247億円と約14倍に増えています。増えてることはすごい、でもなぜでしょう。後述のセグメント分析で見ていきます。

【投資CF、財務CFの状況から企業の資金需給を考える】

 投資キャッシュフローがマイナス、財務キャッシュフローが少なめのプラスなので、外部から少し資金調達しながら、投資している様子が伺えます。

【フリーキャッシュフロー】

 フリーCF=営業CF+投資CFです。企業活動で稼ぐお金と設備投資などに必要な資金の差です。企業が必要な設備投資などを行った上で、ある程度自由に使えるお金を示します。
 営業CFの増加とともに、フリーキャッシュフローも増加傾向にありますね。

【財務分析】セグメント別の状況

【セグメントごとの売上高】

 売上高の大きさから考えると、GMS(総合スーパー)、SM(スーパーマーケット)事業が主力だとわかります。GMSはイオン、SM事業はマックスバリュなどですね。

【セグメントごとの利益率を確認】

 利益率で見ると、2019年度を例に、GMS0.2%、SM0.7%と他のセグメントに比べてとても低いことがわかります。一方、総合金融は14.5%、ディベロッパーは17%です。総合金融には(株)イオン銀行やイオンカードなどのイオンフィナンシャルサービス(株)などがあります。ディベロッパー事業はイオンモール(株)などです。
 イオンの有価証券報告書によりますと、2019年度のセグメント利益はGMS72億円、SMは215億円、ヘルス&ウエルネル350億円、総合金融705億円、ディベロッパー633億円、サービス・専門店51億円、国際104億円となっています。
 つまり、私が普段買い物をするイオン系列のスーパーマーケットより、金融事業やディベロッパー事業(ショッピングモール)が利益を生んでいるんですね。
 大きなスーパーマーケットがあり、集客力があるからこそ、イオン銀行やイオンカードなどの金融事業、ショッピングモールのディベロッパー事業が生きるというのはわかるのですが。スーパーマーケットという業態の厳しさ、金融関係の利益の高さに改めてびっくりしました。

※有価証券報告書データ更新日:2020-05-25

【財務分析】筆者の所感

 スーパーマーケットなどを展開する流通大手のイオン、売上高が8兆円強もあるのかとその規模感に驚きました。さらに、スーパーマーケット関連事業(GMS0.2%、SM0.7%)の利益率の低さに、スーパーマーケットという事業の価格競争の厳しさを感じました。
 このような状況だからこそ、収益性の高い金融事業などに事業領域を広げ、スーパーマーケットに来るお客さんに自社のクレジットカードを持ってもらったり、住宅ローンを借りてもらったりして、一人の顧客に対してライフタイムバリュー(顧客生涯価値)を上げ、一人の顧客からより多くの収益を得ようとしているのではと想像します。

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