【行動経済学視点】企業はなぜ「通常値上げ」ではなく「実質値上げ」を選択するのか?

「実質値上げ」と「新古典派経済学」

実質値上げとは、商品の価格を変えずに内容量を減らすことで、単価を引き上げることです。この発生要因として、原材料費などの価格上昇が挙げられますが、企業はコスト上昇の対策として商品価格の「値上げ」を行わざるを得なくなります。

しかしながらその一方で、「値上げ」の問題点として、商品価格の値上げを行うと、売上が落ちる可能性があります。これらの解決策として「実質値上げ」という手段がありますが、企業はなぜ「通常値上げ」ではなく「実質値上げ」を好んで選択するのでしょうか?

はじめに、典型的な経済学(新古典派経済学)で前提にしている人間像は以下のように考えられています。

・「経済人」(ホモ・エコノミカ)

・超合理的に行動し、他人を顧みず自らの利益だけを追求し、そのためには自分を完全にコントロールして、短期的だけではなく、長期的にも自分の不利益になるようなことは決してしない人

・自分の不快、快楽、の気持ちを瞬時に金額で評価できる

・二日酔いにはならない、過度な借金はしない、忘れ物はしない、仕事と余暇の使い分けもベストにこなす、時間を効率的に使うなど

上記で挙げた典型的な経済学における合理的な選択を取った場合には、企業が同じ単価を引き上げた「通常値上げ」と「実質値上げ」の製品は、両者とも同じように売れるだろうと考えられるはずです(基礎的な経済学の考え方については別の記事で説明したいと思います)。

しかしながら、実際には後者(「実質値上げ」)の方がよく売れており、これは一般的な経済学では説明することができなくなります。この部分に人間の心理的判断を考慮した行動経済学の視点で説明できるのではないか?という疑問が生まれることになったのです。今回は行動経済学に基づく価格設定について解説していきます。

「プロスペクト理論」と具体例

今回の「実質値上げ」を巡る視点を考える上で、以前別の記事の中で紹介したプロスペクト理論について理解する必要があります。

(詳しくは、「プロスペクト理論何にでも使える行動経済学」をご参考にください)

行動経済学におけるプロスペクト理論を簡単に説明したものは以下のものになります。

・行動経済学における理論

・得ているものが減るより、失うものがさらに失うという方が心に響く(だいたい2倍と言われている)

・消費者は現金を失うことを避けようとするが、価格があまり変わらないと安心して、物を失うことに鈍感になると考えられる

ここで3つの質問による具体例を使用しながら導き出される傾向について見ていきましょう。

パターン1

□【選択A】

①必ず1万円をもらえる

②50%で2万円がもらえ50%で何ももらえない

□【選択B】

③必ず1万円を失う

④50%で2万円を失い50%で何も失わない

【選択A】と【選択B】の質問から、

人はお金をもらえる時は確実性を優先し(【選択A】:①>②)

失う時は損失の回避を優先することになり(【選択B】:③<④)

プロスペクト理論が確認できる結果となります。

パターン2

□【選択A】

①必ず1万円をもらえる

②50%で2万円がもらえ50%で何ももらえない

□【選択C】

⑤必ず1万円分のアイスがもらえる

⑥50%で2万円分のアイスがもらえ50%で何ももらえない

もらえる物がお金→ギャンブル回避が多くなる(【選択A】:①>【選択C】:⑤)

もらえる物がアイス→ギャンブル選好が増加(【選択A】:②<【選択C】:⑥)

【選択A】と【選択C】の質問から、

お金が関わる方がリスクを避ける、物よりもお金の方が大切だと確認できる結果となります。

以上の事から、「実質値上げ」と行動経済学について3つの質問から導き出される傾向としては、

●消費者行動には、プロスペクト理論が密接に関係している

●消費者は物の損失よりもお金の損失を避けるので、

これらを「通常値上げ」と「実質値上げ」の関係と照らし合わせて考えると、、、

通常値上げ≒失うものが増える

実質値上げ≒得られるものが減る

と心理的に感じるのと思われるので、消費者は実質値上げを受け入れやすい、と考えることができます。

まとめ

消費者は、「通常値上げよりも実質値上げを受け入れやすい」ので、企業の商品値上げの手法としては、「実質値上げ」は有効的であると結論することが出来ました。また、今回は紹介出来ませんでしたが、家族構成や買い物頻度、商品リニューアルなどの属性を交えて考えることで、効果的なマーケティング分析を行うことが可能になります。行動経済学の考え方は、マーケティングにも非常に有効的に働くのでぜひ学習してみてください。

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